聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~約束の詩~
そこは王侯貴族の住む城のように細部まで手の込んだつくりの広間になっていた。ここが水中であることを忘れるほどに水は澄み渡り、確かに聖域だと感じさせる聖なる気に満ちている。

『ありがとうございます、ここまで来れば大丈夫です。虹の宝玉を見つけていただけたら、湖の中に投げ込んでいただければ力の流れで必ずここまで流れつきます』

『わかりました』

『それから…フューリィを…あの子をどうかよろしくお願いします』

『…? はい…』

リュティアはなんでそんなことを言うのか一瞬不思議に思った。だがすぐにこれから長い間ここにこもるから心配なのだと思い至った。

リュティアはセラフィムがすでに粉々の聖具に両手をかざして修復を始めているのを見て、邪魔してはまずいとそっと神殿を出た。

一人地上に向かって泳ぎながら、リュティアは〈光の人〉セラフィムが自分に授けてくれるという力について聞くのを忘れたことに気がついた。仕方ない、また次に聞こう、と思う。次に聞くことがまったく別のことになることを、この時リュティアは知る由もなかった。

リュティアが光たゆたう湖上へ顔を出したその時だった。

リュティアの遥か上空を行く巨大な鳥の影があった。

それは見たこともないような鳥、紫の羽を広げた巨鳥―四魔月将の一匹ヴァイオレットだった。

彼は上空から、しらみつぶしに聖乙女を探していたのだ。彼の赤い瞳が、森の中に桜色をとらえる!
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