聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~約束の詩~
湖のほとりでリュティアの帰りを待っていたパールが、この時上空の魔月に気付いた。パールは咄嗟に湖に飛び込むと、リュティアの頭を問答無用で水中に深く沈めた。

パールは険しい視線を上空に注ぐ。

―気付かれたか!?

巨鳥ヴァイオレットはしばし上空にとどまったあと、何事もなかったように飛び去って行った。

間一髪だった。

彼は一瞬視界にとらえたリュティアの桜色の髪を、近くのコスモス畑と見間違えたと思ったのだった。

「ふう……危なかった」

「――パール?」

「もう大丈夫、出ていいよ」

ほっとしたのも束の間、フューリィが湖からあがってきた二人を見て目を丸くしている。特に、パールの方を。

「パール…君…髪の色…」

「―――あ」

湖に飛び込んだことで、パールの髪の色はすっかりもとの金色に戻ってしまっていた。特別隠す必要はなかったが、驚かれるとなんとなく気まずい。

フューリィは口をぽかんと開けてつぶやいた。

「セラフィム様と同じ色…きれい…」

面と向かってきれいと言われて、パールは少し驚いた。そして気がついたら早口でこんなことを口走っていた。

「君だって、僕の大好きな姉様と、同じ色だけど…?」

パールとフューリィの二人はばつが悪そうに顔をそむけた。二人の頬は少し紅色に染まっていた。

「リュー、大丈夫だったか」

「はい。セラフィム様は聖具の修復を始めて下さいました。私たちも聖具完成のために、急いで王都ラヴィアに向かい、虹の宝玉を探しましょう」

リュティアが濡れねずみのまま勇んで言う。「その前に着替えだ、ああ、こんなに濡れて…」とカイがぶつぶつ言いながら自分のマントをリュティアに着せかける。

「それにしても、王都ラヴィアは相当広い街だぞ。その中から一体どうやって宝玉を探し出す?」

カイのため息交じりの現実的なセリフに、野太い声が応じた。

「……それなら、心当たりがある」

一同がえっと振り向くと、アクスは眉根を寄せ、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
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