聖乙女（リル・ファーレ）の叙情詩～約束の詩～

第一章 光の人へ

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緋色の落ち葉降る林の中を、風に乗ってどこまでもおいしい匂いが運ばれていく。匂いの元を仔リスたちが落ちつかなげに、興味津々で木陰から覗きこむ。

そこではいくつもの焚火と、その上に載せられた大小様々な鍋の前、赤い髪の大男がせっせと手を動かしていた。

表情は真剣そのものだ。

まるでシェフさながらの集中力で鍋の中のチーズのとろけ具合を見、蓋をしたもうひとつの鍋の中で焼けているだろうパンピザの様子を見る。事実、彼はシェフ。この旅人たちの中でもっぱら料理を担当していた。

大男にしてシェフ―アクスの目を盗んで、小さな手が鍋の中の食べ物を掠め取る。

「う～ん、塩味が薄いなぁ、もうちょっとパンチがきいてた方が」

「こら！　つまみ食いするな！　そして文句を言うな」

つまみ食いした小さな手の持ち主―今は黒髪に染めたパールが、大人びた仕草でちっちっと舌打ちする。

「つまみ食いじゃなくて、あ・じ・み！　クオリティの高い夕食のためには僕の舌が必要不可欠だよオジサン」

「殴るぞ」

「はいはいは～い、暴力反対～」

肩をすくめて逃げ出すパールの後ろでは、カイが今宵の寝床とするため土を柔らかく掘り起こしている最中だった。

「リュー、そっちはどうだ」

「こんなにたくさん集まりました」

林の陰から、黒髪を背に流したリュティアが大きな皮袋いっぱいに何かを抱えてやってくる。

袋の中身はたくさんの落ち葉だった。掘り起こした土の上にこれを敷いて寝るのだ。

なぜか片手で袋を持っていると思ったら、リュティアはもう片方の手で服の裾を持ち上げ、何かを山のように抱え込んでいた。

「…？　それは？」

「どんぐりも集めてみました…え～と、かわいいから、つい…」

リュティアの言うとおり、そこにはたくさんのどんぐりがころんと可愛らしい姿で寝転がっていた。カイは朗らかに笑った。

「それはいい。パールの寝床にこうして、と。ツボ押し効果をつけてやろう」

「まあ」

二人はパールの反応を思ってくすくすと笑み交わした。