聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~約束の詩~
ある日、二人は互いの絵姿を街で偶然に発見する。二人は確かに驚いたのだが――

「不良小僧、お前、この国の王子だったんだな」

ある日、席に着くなりぞんざいな口調でアクスが切り出した。

「赤毛のおっさんこそ、あの有名な傭兵だったんだな」

食ってかかるように、ファベルジェが返す。

「知らなかったのか、間抜けめ」

「あんたこそ、俺のこと知らなかったんだろ、大まぬけだ! 言っておくが、へこへこするんじゃねぇぞ、俺はそういうの大嫌いなんだ」

「するか」

アクスは鼻で笑った。

「ふん、王子だろうがなんだろうが、お前はただの不良小僧だ」

「…………!!」

ファベルジェが思わず杯を置き、目を見開いた。それほどにその台詞は衝撃的だった。

今までは、王子であるとわかった途端、手の平を返すように態度を変える人間にしか出会ったことがなかった。

王子である前に、ただの不良小僧…ただの不良小僧だ、そのフレーズが土に染みいる水のようにファベルジェの心に染みたのだった。

ファベルジェはなぜか口元が緩むのを抑えることができなかった。

「あんただって…ただの赤毛のおっさんさ」

「「大酒飲みの」」

同時に言葉を付け加え、にやりと、二人は歯を見せて笑った。

「飲むか」

「今日こそは負けねぇ」

この時すでに二人の間には何かが芽生え始めていた。だからだったのかも知れない。ファベルジェがこの日、胸の内を吐露したのは…。

「そのくだらない作戦のせいで、大切な友達の家が、焼き払われちまうかもしれねぇんだ…」

杯を傾けながら黙ってファベルジェの話を聞いていたアクスは、おもむろに杯を置くとこう言った。

「今日の飲み比べでお前が勝ったら、その作戦、私が止めてやろう」

「え…?」
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