聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~約束の詩~
アクスは酒を飲みほしながらファベルジェの背後に変わった植物をみつけた。

よくよく見れば、その植物はあっちにもこっちにも生えており、林となっているようなのだが…。

次の瞬間、アクスは腹を抱えて笑いだしていた。自分たちのまぬけさに笑っていたのだ。これが笑わずにいられようか。

「な、な、なんだよ赤毛のおっさん、気味悪い」

「――不良小僧、後ろを見てみろ!」

「………え?」

二人の背後には、竹林が広がっていた。それもファベルジェが図鑑で示したものとそっくり同じもの。すなわち、芽吹竹。

ファベルジェが口をぽかんと開けている。なんとも愚かしいことに、二人は目当ての植物の目の前で、航海に出ては嵐に遭い嘆いていたのであった…。

二人が持ち帰った芽吹竹はその名の通り、プリラヴィツェでもすぐにあちこちで芽吹いて竹林となった。樫の木は全滅したものの、動物たちは芽吹竹の新芽を食べて生き延びることができた。

二人が救ったのは、動物たちだけではなかった。

その年の秋、二人が旅から帰ってしばらくたった頃のこと、収穫期を迎えた畑に季節はずれの雹(ひょう)が襲い、国中の作物が全滅してしまうという、国中を震撼させる大事件があった。

温度変化に強く丈夫な芽吹竹はそんな中でもあちこちで芽吹き続けていたから、ファベルジェたちは人々に竹の子を分け与えて彼らの命を救った。

このことで、アクスとファベルジェは一躍英雄となった。

二人には別れの時が近づいてきていた。

アクスが傭兵として戦争を求め、プリラヴィツェを去る時が近づいていたのだ。

ファベルジェは共に行くことを考えもしたが、すでに王宮にとどまることを決意していた。

見たこともない竹の子を皆が食べてくれたのは、彼が“王子”だったからだ。その権力があるからこそ、できることもある…そう知った彼は、王子として生きることを選んだのだった。
< 63 / 121 >

この作品をシェア

pagetop