聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~約束の詩~
十数年の間プリラヴィツェと隣国ウルザザードの間には表面上和平が保たれてきていた。だが今回、国境付近で小競り合いがあり、仲直りの意味を含んだ交渉が行われることになった。
この大切な和平の使者にファベルジェが選ばれたのは、12番目の王子ながらも彼の功績や影響力から考えて妥当なことであった。
交渉はウルザザードにて行われることとなり、彼のお抱えの騎士となったアクスも当然同行することになった。
「一騎打ちの勝負がしたい? 先方はそんなことを言ってきてるのか」
「そ。だから、この斧の刃をつぶしてくれ。和平のための一騎打ちだ、相手に怪我をさせたくないんだ」
ファベルジェはいつになく緊張した様子でアクスに斧を渡す。
ウルザザードは騎馬の国で、広大な草原に張られた豪奢な天幕が王城の役割も兵舎の役割も果たす。
一騎打ちは首長の天幕にほど近い黒く塗り込められたどこか不吉な天幕の中で、あくまでも相手方の首長の息子―こちらでいう王子―との一対一で行われるという。
伝統的にほかの者は天幕に入ることすら禁じられていると聞いた時点で、アクスは猛反対するべきだったのだ。
むろん、アクスは反対した。だがファベルジェはアクスの心配を軽やかに笑って一蹴した。
「大丈夫。俺にはあんた譲りの斧の腕がある、負けっこない。それに全部和平のためさ、相手方の伝統的なルールに従わなければ失礼にあたる。俺はこの和平交渉の大役を無事終えたいんだ。アクス、何が何でも絶対、中に入ってくるなよ」
この時、なぜ、アクスは何が何でも中に入って見守ると言い張れなかったのだろう。この時よぎった不安を、なぜもっと重く考えなかったのだろう。
「わかった。絶対、中には入らん」
アクスは大人しく分厚い天幕の外で待つことにした。そして…一騎打ちが始まった。
―和平のためだ。
―絶対、中には入らない。
ファベルジェの悲鳴が聞こえても、アクスは中に入ろうとはしなかった。伝統的な戦いを汚してはならない。和平のためなのだ。
だが――
この大切な和平の使者にファベルジェが選ばれたのは、12番目の王子ながらも彼の功績や影響力から考えて妥当なことであった。
交渉はウルザザードにて行われることとなり、彼のお抱えの騎士となったアクスも当然同行することになった。
「一騎打ちの勝負がしたい? 先方はそんなことを言ってきてるのか」
「そ。だから、この斧の刃をつぶしてくれ。和平のための一騎打ちだ、相手に怪我をさせたくないんだ」
ファベルジェはいつになく緊張した様子でアクスに斧を渡す。
ウルザザードは騎馬の国で、広大な草原に張られた豪奢な天幕が王城の役割も兵舎の役割も果たす。
一騎打ちは首長の天幕にほど近い黒く塗り込められたどこか不吉な天幕の中で、あくまでも相手方の首長の息子―こちらでいう王子―との一対一で行われるという。
伝統的にほかの者は天幕に入ることすら禁じられていると聞いた時点で、アクスは猛反対するべきだったのだ。
むろん、アクスは反対した。だがファベルジェはアクスの心配を軽やかに笑って一蹴した。
「大丈夫。俺にはあんた譲りの斧の腕がある、負けっこない。それに全部和平のためさ、相手方の伝統的なルールに従わなければ失礼にあたる。俺はこの和平交渉の大役を無事終えたいんだ。アクス、何が何でも絶対、中に入ってくるなよ」
この時、なぜ、アクスは何が何でも中に入って見守ると言い張れなかったのだろう。この時よぎった不安を、なぜもっと重く考えなかったのだろう。
「わかった。絶対、中には入らん」
アクスは大人しく分厚い天幕の外で待つことにした。そして…一騎打ちが始まった。
―和平のためだ。
―絶対、中には入らない。
ファベルジェの悲鳴が聞こえても、アクスは中に入ろうとはしなかった。伝統的な戦いを汚してはならない。和平のためなのだ。
だが――