聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~約束の詩~
「…アクス!!」
血を吐くようなファベルジェの叫びが聞こえた時、アクスはもう我慢が出来なくなって天幕の中に飛び込んでいた。
そこには――
戦慄の光景が広がっていた…。
十数人のウルザザード人がよってたかって、紛れもない真剣でファベルジェを串刺しにしていたのだ!
―ファベルジェ!!
アクスの悲鳴は声にならなかった。
「おや、ばれてしまいましたか。試合中の、不幸な事故にしたかったのですが」
ファベルジェの体から真剣を引き抜きながら、首長の息子が居丈高に笑った。それに合わせるように、他の男たちも一斉にファベルジェの体から剣を引き抜く。
激しい血しぶきが上がり、ファベルジェの体がゆっくりと崩れ落ちていくのを、アクスは全身が瞳になったような心地でただみつめていた。すべてが夢、悪い夢のようだ。しかしアクスの頬を濡らす血の温かさが、アクスを我に返らせた。これが紛れもなく現実であると知らせていた。
「ファベルジェ―――!! しっかりしろファベルジェ!!」
「アクス…和平を…」
それがファベルジェの最期の言葉だった。
それからのことを、アクスはあまり覚えていない。
ただ怒りで―あまりの怒りで目の前が真っ赤だった。
アクスは雄たけびを上げ、手当たり次第に斧をふるった。
気がつくと、首長の息子をはじめとするウルザザード人の躯(むくろ)が血の海に転がり、生きている者はアクス一人だった。
和平はめちゃくちゃになった。プリラヴィツェとウルザザードの間で戦争が巻き起こり、大勢の人が死んだ。戦火で王城裏の森も焼け、多くの動物たちが死んだ。まるでファベルジェの死に殉ずるように。
―私が守る。お前の守りたいすべてを守る。約束する。
約束は、果たされなかった。
アクスはファベルジェが“守りたいすべて”を、その斧で破壊してしまったのだ…。
血を吐くようなファベルジェの叫びが聞こえた時、アクスはもう我慢が出来なくなって天幕の中に飛び込んでいた。
そこには――
戦慄の光景が広がっていた…。
十数人のウルザザード人がよってたかって、紛れもない真剣でファベルジェを串刺しにしていたのだ!
―ファベルジェ!!
アクスの悲鳴は声にならなかった。
「おや、ばれてしまいましたか。試合中の、不幸な事故にしたかったのですが」
ファベルジェの体から真剣を引き抜きながら、首長の息子が居丈高に笑った。それに合わせるように、他の男たちも一斉にファベルジェの体から剣を引き抜く。
激しい血しぶきが上がり、ファベルジェの体がゆっくりと崩れ落ちていくのを、アクスは全身が瞳になったような心地でただみつめていた。すべてが夢、悪い夢のようだ。しかしアクスの頬を濡らす血の温かさが、アクスを我に返らせた。これが紛れもなく現実であると知らせていた。
「ファベルジェ―――!! しっかりしろファベルジェ!!」
「アクス…和平を…」
それがファベルジェの最期の言葉だった。
それからのことを、アクスはあまり覚えていない。
ただ怒りで―あまりの怒りで目の前が真っ赤だった。
アクスは雄たけびを上げ、手当たり次第に斧をふるった。
気がつくと、首長の息子をはじめとするウルザザード人の躯(むくろ)が血の海に転がり、生きている者はアクス一人だった。
和平はめちゃくちゃになった。プリラヴィツェとウルザザードの間で戦争が巻き起こり、大勢の人が死んだ。戦火で王城裏の森も焼け、多くの動物たちが死んだ。まるでファベルジェの死に殉ずるように。
―私が守る。お前の守りたいすべてを守る。約束する。
約束は、果たされなかった。
アクスはファベルジェが“守りたいすべて”を、その斧で破壊してしまったのだ…。