聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~約束の詩~
王城からの帰り道、リュティアはいつもよりずっと大人しく見えた。その長い睫毛は伏せられ、薄紫の瞳は景色ではなく何か別のものを映しているようだ。

「そんなの、アクスさんのせいじゃありません…人一人に、戦争を起こす力など、あるはずもない…」

誰に言うともなく唇からこぼれたその呟きを、カイはもっともだと思った。

「だが…」とカイの口からため息が漏れる。

「アクスさんは自分を責めたのだろう。大切な主も約束も失って…だからアタナディールのあんな山奥にこもったんだ」

自分がアクスだったとしても、やはりそうするだろうとカイは思った。それでもアクスがかつての主のことをずっと忘れられないでいたのは間違いない。そうでなくていつも首から銀の鎖をさげるだろうか。鎖を手に、アクスは自分を責め続けてきたのだ。その長い年月を思うとカイは心が重たくなった。

リュティアは隣でうつむき肩を落として歩いていたが、不意に振り向いてカイを見上げた。その瞳はわずかに潤み、切実な思いが感じられる。

「私、アクスさんを探します。カイ、手伝ってくれませんか?」

「わかった。私も彼をこのまま放っておきたくない」

二人は小さく頷き合う。

「パール、お願いがあります。虹の宝玉を持って、フューリィと二人で先にセラフィム様のところに行ってもらえませんか」

「え!!?」

「二人で!!?」

パールとフューリィの二人はぎょっとして目を合わせ、それから気まずそうに顔をそむける。

先日エリアンヌ相手に息の合った発言をしてからというもの、二人の間にはなんとなく連帯感のようなものが芽生えつつあった。

そのおかげだろうか、二人はどちらからともなく「まあ、そういうことなら」「わかりました、お姉さんが言うなら」などと口ごもり了承した。
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