聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~約束の詩~
ここはプリラヴィツェ王国一の大街道“緋色の道”。

故国の再興のため、また星麗としての力を手に入れるために、リュティア達は聖具と呼ばれる三つの装飾品を集める旅をしている。

ヴァルラム王国王都ヴァラートを出たリュティアたち一行は、街道をまっすぐ北へ進み、いくつもの宿場町を越えて、一か月かけやっと先日プリラヴィツェの領内に入ったところだった。

流れの激しい川レツェルトに沿って定められた国境、巨大な鉄橋の関所でも足止めされることもなく、旅は順調に進んでいた。

ヴァルラムからプリラヴィツェへは広く旅人達にも開かれているという印象を受けた。その理由は両国の対ウルザザード和平条約のおかげだろうとは聡いパールの意見だ。

プリラヴィツェは風光明媚な土地柄で、一行の耳目を十分に楽しませてくれた。今日もちょうど歩き疲れたところで秋桜(コスモス)の花畑をみつけた彼らは、そこで思い思いに休憩をとることにした。

木に耳を当ててそっと会話しているパールのそばで、リュティアとカイは花冠を編んでいる。アクスは休憩などいらぬ風情で、昼食の準備に忙しい。

一見すると平和そのものの彼らだが、それぞれの胸の内には様々に複雑な想いがあった。

まず、アクス。

リュティアたちの専属料理人として旅をすること一か月、アクスの胸を満たしているのは心地よい充実感だった。

不思議と家に残してきた娘マリアのことも心配ではなかった。フレックスがマリアを守ると約束してくれたからというのもあるが、それだけではないだろう。アクスは気づきたくなかったが、この旅をとても楽しくやりがいのあるものに感じている自分がいるのだ。

ただ―アクスには秘密があった。

どうしても言えない深刻な秘密、旅に出ることを最後まで迷わせた秘密が。それが心に打ち込まれた楔(くさび)のように充実した気持ちに影を落とす。

いつ言うべきか、いつなら言えるか…。
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