聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~約束の詩~
「勝負だ」

言うなり少年の手から繰り出された剛剣を国王が辛うじて受け止められたのは奇跡と言えた。

それは勇武を誇る国一の戦士ですら手に余るだろう正確無比な一撃だったからだ。

しかし奇跡は二度は起こらなかった。

少年の次の一撃で国王の剣は弾き飛ばされ、それをはっと目で追っているうちに彼は激痛に胸を貫かれていた。

国王は自らの胸に吸い込まれた刃を見た。それが彼の見た最後の景色だった。

「…む、無念…」

どう、と国王の体が地に倒れ、王冠が乾いた音を立てて転がる。

東の大国トゥルファンの王の最期は、あまりにもあっけなかった。

少年は転がり続ける王冠を足で踏み止めると、稲妻の檻を消した。

国王の変わり果てた姿に息をのんだ兵士たちも、襲いかかる獣たちによって次の瞬間には同じ運命をたどっていく。

少年の瞳はそれを映さない。踏みつぶした蟻(あり)を振り返ることがないように。

少年は鮮血のしたたる剣を横になぎはらうと、背後の魔月たちの大群を振り返って告げた。

「トゥルファンはたった今滅した! ここに新しき魔月の王国、グランディオムの建国を宣言する!」

そのよく響く声に応えるように、魔月の群れがその動きを止め雄たけびをあげた。

邪闇石によって人語を解する知能を得た彼らは、皆この少年―魔月王ライトファルスに忠誠を誓っているのだった。
< 72 / 121 >

この作品をシェア

pagetop