聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~約束の詩~

今日何度目か知れないため息をついて、パールはあちこち剥げた木製の机につっぷした。

彼の目の前にはガラスの一輪挿しに、ピンクの秋桜(コスモス)が活けられている。その花にこめられた気持ちが、今のパールには重い。重すぎる。

彼がいるのは粗末ながらこざっぱりと整頓された小さな部屋だった。

箪笥とベッド、彼が今つっぷす机のほかは家具らしい家具もないが、隅々まで手入れが行き届いていて清潔だ。

それはこの部屋の主、フューリィが掃除好きの働きものだからだった。

10日でピューアの村に帰り着き、セラフィムのいる深碧の湖へ虹の宝玉を届けたパールとフューリィは、村はずれのフューリィの家を拠点にリュティア達を待っていた。

リュティア達が無事アクスをみつけることができたら、宿屋で落ち合うことになっていたので、日に一度は村の宿屋へ顔を出したが、それ以外は忙しく日常を送っていた…フューリィに限って言えば。

フューリィは庭の野菜の世話をしたり水汲みや薪割りや掃除、洗濯をしたり、危険な崖からとってきた貴重な野草や自らかまどで焼いたパンを売ったりして、朝から晩までめまぐるしく働いていた。

パールはそれを横目にフューリィの家にこもり、ふさぎこんでいた。
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