聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~約束の詩~
突然ふわりと何かを頭に載せられ、アクスの物思いは破られた。

見れば目の前でリュティアが美しい瞳を輝かせている。

「私が編んだ花冠です」

アクスはぎょっとなった。今、花冠と言わなかったか。

「似合っています」

うっとりと呟くリュティアに、アクスは完全に面喰らった。

陽に焼けた無骨な彼に、花冠が似合うはずがない。

案の定、アクスを見てカイとパールが弾けるように笑いだす。だが、リュティアは白い両手を組み合わせてまだ陶然としている。

「い…いらん、こんなもの…」

照れ隠しにそう言うしかなかったけれど、振り落とそうとはしなかった。

そんなアクスを見て、朗らかに笑うカイ。

彼の胸にも、様々な想いがある。

カイは自分が屈託なくよく笑うようになったことに気がついていた。

それは番人パールがリュティアに試練を与えた時、聖具よりも何よりもリュティアがカイを選んでくれたあの時からだ。あの時から自分の中で何かがふっきれたのは間違いない。だがそれと同時に、カイはどうしようもない欲求に悩まされていた。

リュティアに触れたい。

一度でいいから力いっぱい抱き締めてみたい。

その唇に触れたい。

それは年頃の男性としては自然な欲求だったが、叶うはずもない欲求であった。まだ想いすら打ち明けることができないでいるのだから。せめて想いだけでも打ち明けられたら、この気持ちも少しは和らぐのだろうか…。

「リュー」

呼びかけ、カイは自分で編んだいかにもへたな花冠を、リュティアの頭の上にそっと載せた。そうするとカイの瞳の中で、愛しいリュティアの顔が幸福そうに綻ぶ。

「ありがとう!」

自分のためだけの笑顔。今はこれだけで満足しておこうと、カイは自分を無理やり納得させるのだった。
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