聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~約束の詩~
セラフィムはいつも村を守れと言ったから、フューリィは彼なりに村を守ってきた。

子供たちの喧嘩を仲裁し、冷害から作物を守るため奔走した。そのかわりのようにフューリィはセラフィムと約束していた。いつか二人で世界中の本を集めに旅立とうと。

「セラフィム様がいるから僕は生きられる。セラフィム様は僕の親、僕の生きがい、出会った時から僕を照らす希望の光なんだ」

「……………」

黙り込むパールに、フューリィがさげていたカバンから何かを取り出して見せた。

それはほころぶ花びらのような形に淡い紅色をしたグラス、掲げるフューリィの手の中遠く湖を透かしてどこまでも透き通る“絆のグラス”だった。

「このグラス、知ってる? 大切な人に飲み物を入れて渡すと絆が永遠になると言われているんだけど…実はまだセラフィム様に渡せていないんだ。ちょっとこわくて…僕がセラフィム様を大好きなくらい、セラフィム様も僕のことを好きでいてくれたらいいんだけど、自信がなくて…」

顔をあげてパールを見たフューリィは、そこで凍り付いた。

パールの頬を、一筋の涙が伝っていたからだ。

「―フューリィ」

震える声で、パールは言った。

「僕の悩みは、そのセラフィムのことなんだ」

「え……?」

「セラフィムは――――――」
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