聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~約束の詩~
「食べもの、みーっけ! なんだ、もう死んでるど?」
野太い声とともにアクスは蹴り飛ばされ、仰向けにされた。
アクスの視線がぼんやりと焦点をむすぶ。
彼をのぞきこんでいたのは、見るからに凶暴そうで巨大な獣人だった。むきだしの上半身は筋肉で見事に盛り上がり、その重そうな体を猛禽のようなかぎ爪のついた太い両足が支えている。頭頂部に赤い角をみつけて、アクスは眉根を寄せた。
―魔月…それも人語を操っている…セラフィムが言っていた、四魔月将…?
乱暴に頭をつかまれて、アクスは思わず呻いた。
「おっ、生きてたど。うまそうな肉だ」
本能が逃げろと警鐘を鳴らしていたが、今のアクスにそんな力は残されていなかった。
巨人は玩具にじゃれつくように片方の手でアクスを繰り返し小突いたり、手を離して地面に落としたりまた持ち上げたりした。乱暴な扱いにたちまちアクスの体のあちこちに血が滲むが、アクスはなすがままだ。
この巨人が遊びに飽きた時、アクスは殺されるだろう。
―ファベルジェ、こんな形でお前の元に行くことになるのは、報いなのかも知れない。
死を覚悟したアクスの胸に、リュティアの面影が忍び込む。
―似合っています。
自分の頭に花冠を載せてうっとりと微笑んだリュティア。狐の子を治療して親狐に果物をもらってしまい、困った顔をしたリュティア。アクスのつくった料理をおいしいと笑うリュティア。
アクスの視界が涙でぼやけた。
アクスは今さらになって、自分がどれだけリュティアという新しい仲間を慕っていたか思い知った。だから「おやめなさい!」とリュティアの敢然とした声が耳を貫いても、自分の気持ちが聞かせる幻聴だとしか思わなかった。
「その人への乱暴狼藉は、私が許しません!」
それは確かにリュティアの声だった。だが、今までに聞いたことのない強い響きを持つ声だった。
野太い声とともにアクスは蹴り飛ばされ、仰向けにされた。
アクスの視線がぼんやりと焦点をむすぶ。
彼をのぞきこんでいたのは、見るからに凶暴そうで巨大な獣人だった。むきだしの上半身は筋肉で見事に盛り上がり、その重そうな体を猛禽のようなかぎ爪のついた太い両足が支えている。頭頂部に赤い角をみつけて、アクスは眉根を寄せた。
―魔月…それも人語を操っている…セラフィムが言っていた、四魔月将…?
乱暴に頭をつかまれて、アクスは思わず呻いた。
「おっ、生きてたど。うまそうな肉だ」
本能が逃げろと警鐘を鳴らしていたが、今のアクスにそんな力は残されていなかった。
巨人は玩具にじゃれつくように片方の手でアクスを繰り返し小突いたり、手を離して地面に落としたりまた持ち上げたりした。乱暴な扱いにたちまちアクスの体のあちこちに血が滲むが、アクスはなすがままだ。
この巨人が遊びに飽きた時、アクスは殺されるだろう。
―ファベルジェ、こんな形でお前の元に行くことになるのは、報いなのかも知れない。
死を覚悟したアクスの胸に、リュティアの面影が忍び込む。
―似合っています。
自分の頭に花冠を載せてうっとりと微笑んだリュティア。狐の子を治療して親狐に果物をもらってしまい、困った顔をしたリュティア。アクスのつくった料理をおいしいと笑うリュティア。
アクスの視界が涙でぼやけた。
アクスは今さらになって、自分がどれだけリュティアという新しい仲間を慕っていたか思い知った。だから「おやめなさい!」とリュティアの敢然とした声が耳を貫いても、自分の気持ちが聞かせる幻聴だとしか思わなかった。
「その人への乱暴狼藉は、私が許しません!」
それは確かにリュティアの声だった。だが、今までに聞いたことのない強い響きを持つ声だった。