忠犬ハツ恋
一色先生は私の様子から何かを察知していた。
タバコをもう一本取り出すと火を付ける。

「せっかくここまで来てんのにね?」

「いいんです。帰ります。」

大ちゃんは私がここに来るのを嫌がっている、
それは何と無く最近肌で感じていた。
私は笑って一色先生に背を向ける。

一色先生はそんな私の後ろ姿に声を掛けた。

「勘弁してやってね。
この間ウチの系列の講師が援交で捕まったんだ。」

「え?」

そんなの聞いた事なかった。

「美咲ちゃん達は婚約してると言っても知らない奴がハタから見れば……ね?」

ハタから見れば……私と大ちゃんは不自然?

私は服の中に隠された首から下げた婚約指輪をギュッと握り締めた。

「それ、良かったら俺に頂戴よ。」

一色先生は私の持つガトーショコラを指し示す。

「手作りケーキ。当たりだろ?」

「……ガトーショコラです。」
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