忠犬ハツ恋
「女はサクラみたく簡単に心変わりするもんだと思ってた。
なのに白石は大ちゃんに一途だ。
何なんだよお前。
知りたいなら教えてやる。今の俺の気持ち。」

檜山君の視線を感じて私は少し檜山君の隣から遠退いた。

「いえ、あの、知らなくて結構です!
むしろ…困る。」

「だろ?そう思ったから言わないで来た。
俺はお前を困らせたいワケじゃない。
けどな…。」

………けど…?

「お前がどれだけ大ちゃんを大事に思っていようが、大ちゃんがお前を苦しめ続けんなら俺は容赦なくお前を奪う。
覚悟しとけ。」

檜山君はそう言って私の方ににじり寄って来ると逃げだそうとした私の腕を掴み引き寄せた。

「待って檜山君!
たった今、私を困らせたいワケじゃないって言ったでしょ?
コレ!困る!!」

「じゃあ死ぬ気で拒め。」

檜山君は強引に私の唇を奪う。

花火に照らされた檜山君の長いまつ毛がキラキラと輝いて見えた。

「んっっ!やっっ!!止め…。」

檜山君が奏でる"チゥッ"と言う粘着質な音が私から抵抗力を奪って行った。

夏虫がカナカナと囃し立てる。
目の前では大輪の花火が夏祭りの終わりを知らせていた。

「白石、俺に望月をあてがうな。
お前の性格を分かっていて、仕方ないと思っていても結構傷付く。」

「………ごめん…。」
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