忠犬ハツ恋
「寅年生まれ、だから大我。
皆、俺をタイガーと呼ぶ。どうぞよろしく!」

一色先生はゆっくりと生徒を見渡し1つ質問した。

「この中でもう進路を決めてる奴、挙手。」

教室の中の3割くらいがパラパラと手を挙げた。
檜山君も私もじっとしている。

「じゃあ、今、手を挙げていない奴に告ぐ!
"大いに悩め"。」

それは一般的に塾やなんかで言われる事と真逆だった。どこへ行っても進路ははやく決めるように言われるのに…。

「お前達の人生はこの先まだまだ長い。
寄り道もいいだろう。
ある時進路が決まった時に慌てなくて済むよう基礎の学力は我々がつけてやるから、死ぬほど悩んで悩み抜け。
これからの50分終えてこのタイガーを信じてみようと思うならウチの入塾願書を渡す。しっかり見定めろ!いいか?」

そこにいるのはいつも東野の裏口で気怠そうに煙草をふかしている一色先生じゃなかった。

ちゃんと……講師なんだな……。

当たり前だけどそんな事を思っていた。
悔しいけどかっこイイ一色先生がそこにいた。
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