忠犬ハツ恋
そこは自動車整備工場だった。
看板には"勅使河原自動車整備工場"とある。

ズンズン中に入って行く檜山君の後に続くと、檜山君のバイクが置いてあった。

「調子の悪いとこは全部直しといたぜ〜。」

油まみれの作業服を着た白髪頭の初老の男性が現れたかと思えば、それだけ言うと去って行く。

「おやっさん!修理代は?」

「要らん!!サクラに"たまには帰って来い"とだけ伝えてくれ。」

檜山君はバイクを出入り口まで引いてエンジンをかけた。
ブルルルルルと地を這うようなエンジン音。
檜山君がヒューと1つ口笛を吹く。

「さすがだな、全然調子が違う。」

そのままバイクに乗って帰るのかと思えば、
檜山君はエンジンを切って鍵を抜いた。

「ちょっとコッチ、白石。」

檜山君は赤く塗られた鉄階段を上に登り出すからとりあえず私もついて行った。

檜山君が階段の途中で止まって下に向かって叫ぶ。

「おやっさん!ちょっと事務所借りるぞ。」

「お〜う!好きにしろや。」

上は事務所らしかった。
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