忠犬ハツ恋
201号室に向かいながら檜山君は私には告げた。

「まだハグもキスも足らねぇんだろ?
俺の家なら思う存分。」

そう言われて改めてさっきまでの自分の行いが無性に恥ずかしくなってきて、扉の前まで来てこの扉の中に入る事が躊躇われた。

「いいや、もう充分!!!
やっぱり私、帰るね。電車で帰るから送ってくれなくて大丈夫。」

「はあ?何で?」

「何で?って。」

「遠慮すんなよ、サッサと入れ。」

檜山君に半ば強引に部屋に押し込まれた。
玄関先で檜山君の熱い眼差しが私を捉えて離さない。

「あの…もう本当にいいの!
ありがとう檜山君。」

必死で抵抗する腕はいとも簡単に捕まえられる。

「お前は良くても俺が良くないっての。」

檜山君の顔が私に再び迫って来た時、私の鞄の中の携帯が震え出した。

この着信音!!

「茜ちゃんだ!!」

私は檜山君を跳ね除けると携帯を取り出し通話ボタンを押した。
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