忠犬ハツ恋
「マスター、お酒頂戴〜。」

詩織さんはそれでもまだ飲む気でいた。

「もう、止めときましょう。佐々木さん。
すぐ筧戸先生呼びますから!
そんな姿見られたら尚更、筧戸先生に嫌われますよ?」

"筧戸先生に嫌われる"
荒木先生のその一言に詩織さんは急に大人しくなる。
顔を真っ直ぐ東野の方に向けると信じられない一言を発した。

「あ〜あ、あの時の赤ちゃん意地でも産むんだったなぁ……。そしたら今頃筧戸詩織になってたのに……。」

詩織さんのその台詞に私の心臓は一瞬鼓動を打つ事を忘れた。

荒木先生が私の代わりに詩織さんに問う。

「佐々木さん!身籠ったんですか?
筧戸先生の子?いつ?」

詩織さんはフッと笑って視線を落とすと静かに語る。

「昔話ィ〜。 高校の時だから10年位前…。」

それを聞いて誰もが押し黙った。
詩織さんは当時を思い出したのか次々と大ちゃんとの過去を語り出す。
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