忠犬ハツ恋
「妊娠が発覚してェ、それを彼に告げたら"ゴメン"って一言。
"あぁ、これって堕ろせってイミなんだろうなぁ〜"って。
まぁウチは進学校だったから〜在学中に妊娠なんて御法度だったンだけど。
でも私、生みたかった〜。
だから彼に"堕ろして欲しかったらお金頂戴"って言ったのよ。中絶費用。」

つい最近聞いたような話に私の足は震えた。
檜山君も同じ思いなのか詩織さんの昔話をただ黙って聞いている。

詩織さんに問えるのは荒木先生だけだった。

「それで……筧戸先生はお金用意して来たんですか…?」

「中絶費用なんて高校生には決して安くない。
親にでも借金しなきゃ無理なはずなのォ。
筧戸先生、そんな理由で親に借金出来るタイプじゃないわ。
私は〜それを分かってて彼にお金を要求した。
お金が欲しかったんじゃないし、堕ろしたかったんじゃない……。」

詩織さんはさっきとは違ってポロポロと涙を溢す。
酔っ払って荒木先生に絡んでいた暴力的な詩織さんは何処かへ消えていた。

「でも、筧戸先生はお金を用意して来た。
彼の近くには金持ちの助け舟がいたのよ……。」

「………一色…先生……?」

荒木先生にそう問われ、詩織さんは静かに頷く。

私は一色先生の自宅を思い出していた。
1Fには2台の高級車。
一色先生はお金持ちだという事は私にも感じ取れた。
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