忠犬ハツ恋
真っ赤なフェラーリの中は意外にもクラシック音楽が流れていた。
一色先生はあくびを噛み殺しながらハンドルを握る。

「……すみません……。
一色先生疲れてるのに…。」

「気にしなくていいよ。
塾の講師なんてさ、夜は遅いけど朝は割とのんびりしてるんだから。」

大ちゃんも時々そう言う事を言うけれど、
結局次の講義の準備とか参考書を探して本屋を巡ったりとか、朝だって全然のんびりしてないんだ。

一色先生は窓を開けるとタバコを咥えた。

「まぁ慰めになるかどうか分からないけどさ、詩織が高校時代に身籠った子、俺は大輔の子じゃないと思ってる。」

「えっ?だって……。」

「詩織にはいつも男の影があった。
大輔と付き合ってた時も大輔だけじゃなかった。
だからこそ大輔もそんな詩織を選んだ。
別れたくなればすぐに別れられる。
大輔は軽く付き合える彼女が欲しかったんだよ。」

軽い……お付き合い…?
何だか聞けば聞く程大ちゃんの印象が悪くなるんだけど……。

「詩織は彼氏達を試したんだ。
妊娠すればどんな対応を取るか、誰が1番自分を大事にしてくれるか。」

「1番大事にしたのが…大ちゃんなんですか…?」

「だろうね。他の彼氏達は姿を消した。」
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