忠犬ハツ恋
オシャレなフランス映画は不器用なカフェの店員と何処ぞの上流の貴族のお嬢様の身分違いの恋を描いていた。

「俺はこの映画観てラテアート始めたんだ。」

カフェの店員は想いを伝えるためにラテアートを必死に練習し、綺麗なハートを描けるようになるとそれを持って告白に行く。

しかしコーヒーを渡す直前で階段に躓いて転んでしまった。
当然ハート柄なんて見る影もない。

落ち込む彼の元に後日今度は彼女がラテアートを持ってやって来る。
しかしそれは何が描かれているかさっぱり分からない代物だった。

優しい彼は"問題は見た目じゃない、中身なんだ"とコーヒーに口を付けるが、コーヒーなんて淹れた事のないお嬢様が作ったコーヒーはとんでもない不味さだった。

"今度は2人でラテアートを作ろう"
と物語は派手な抑揚もなく、ほんわかとした2人のラブシーンへと突入する。

親と映画を観ている時もそうだが、1人じゃない時に遭遇するラブシーンって堪らなく居心地が悪い。
しかも今一緒に観てる相手は檜山君で。

居た堪れなさに檜山君に不自然に明るく話題を振った。

「ハート柄って難しいんだね?」

気がつくと檜山君は私にすごく密着していて、至近距離から檜山君が答える。

「何事もシンプルなのが1番難しいんだよ。」

私は後ろに仰け反りながら
「そ…そう?……そうだよね〜?」
と笑って見せた。
< 378 / 466 >

この作品をシェア

pagetop