忠犬ハツ恋
「美咲、これだけは覚えてて。
美咲が泣く程喜んだ俺らの婚約。
でもそれを誰よりも1番望んで止まなかったのはこの俺だという事。
美咲なんかの比じゃないよ。
お前が生まれたあの日からずっと…、俺は…。」

………大ちゃん…。

「俺はお前を待ってる。
美咲の意思で俺の所に戻って来るのを待ってる。
俺に…もう一度チャンスをくれ。」

大ちゃんが扉から離れて行く……。

今まで聞いた事の無かった大ちゃんの告白。
その告白に酷く心が痛んだ。

大ちゃんは私が戻って来るのを待つと言うけどそれは本心?

私は婚約破棄覚悟で大ちゃんを裏切った。
私の裏切りを知っても私を待つと言うの?

大ちゃんの気配が消えてリビングは静寂が占領していた。

そっと寝室を出ると仄かに大ちゃんの残り香がした。

私が小さな頃からずっと一緒にいてくれた大ちゃん。
大好きな大好きな従兄弟のお兄ちゃん。
ただ大ちゃんとの幸せな未来を信じて疑わなかった。
ただ大ちゃんとの幸せな未来だけを想い描いて生きてきた。

それを私は今、自分から壊そうとしている。

心の大きな支えを失ったような焦燥感に駆られて私は慌てて鞄を掴むと大ちゃんの後を追って玄関に向かった。
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