忠犬ハツ恋
靴を履いていると玄関の扉が開いてそこに檜山君と荒木先生が戻って来ていた。

「………帰んの?」

檜山君が静かに問う。

「う、うん……。」

荒木先生が檜山君の肩越しに中を伺う。

「あれ?ハチ公ちゃん、もう1人いた男の人知らない?」

「…か…帰られたみたいですよ。
私がリビングに顔を出した時にはもう…。」

「そっかぁ……筧戸先生には何だか申し訳無い事になっちゃったな。
じゃあ、俺も東野に戻るわ。サンキュー圭太。
ハチ公ちゃんもまたね。」

荒木先生はそのままくるりと身を翻しエレベーターに向かって去って行く。

私も荒木先生に続こうと檜山君の脇をすり抜けると檜山君に腕を掴まれて玄関に引き戻された。
私の背後で荒々しく玄関の扉が閉まる。

「帰んな。」

そう言って檜山君は私を強く抱き締める。

「帰んなってムリだよ。明日学校だよ?」

「じゃあ家まで送ってやるからちょっと待て。」

「大丈夫。今お昼だよ?1人で帰れる。」

「分かんねぇ奴だな。
離れたくねぇっつってんの!」

檜山君の真剣な眼差しを見つめ返す事が出来ず私はただ俯いていた。
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