忠犬ハツ恋
「ごめん……。
私は………少し…1人になりたい。」

檜山君が私を抱き締める力が少し緩んだ。

「1つ…聞いていいか…?」

檜山君にそう言われ私はゆっくりと視線を上にあげる。

「俺との事、後悔してる?」

「違うの、そうじゃない!
ただ………ちょっと混乱してるだけ…。」

ここに泊めてくれと願い出たのは私の方。
檜山君は悪くない。
でも私がそう弁解しても檜山君の表情は寂し気だった。

「混乱か……。
それと後悔とどう違うんだよ。」

「違うよ。混乱と後悔は違うでしょ?」

私はやんわりと檜山君の胸を押し返した。
2人の間の隙間が広がって行く。

すると檜山君は私が胸を押し返している手首を掴んだ。

「これから……大ちゃんに会うのか?」

「会えないよ。会える訳無いじゃん。」

「"会えない"んだ。"会わない"じゃ無くて。」

「……。」

檜山君は私の言葉の細かな所から私の心情を探っていた。

「…会わないよ……。」

檜山君は私の襟元にくちづけた。
そこにチクリと小さな痛みが走る。

「美咲は俺のもんだ。そうだろ?」

その質問には答える事が出来なかった。

「……泊めてくれてありがとう。
また明日ね。」

そして私はそこから逃げるように駆け出した。

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