忠犬ハツ恋
「美咲ちゃん……ごめん。」

一色先生は何に謝っているんだろう?

涙を必死に手で拭い頭をブルブルと横に振るとふと一色先生の両手が私の頬を包み込んだ。

「一色先生……私………。」

その時ログハウスの玄関の扉が突然開いた。
そこに現れたのは大ちゃんで。

椅子に座る私を覆うようにして立ち私の頬を包み込む一色先生を見て大ちゃんは確実に何か思い違いをしていた。
私が泣いているのも思い違いを生んだ一因かも知れない。

「大我、お前何やってんだよ!」

大ちゃんはツカツカとこちらに歩み寄ると一色先生の胸ぐらを掴む。
暴力が何よりも苦手な大ちゃんの行動とは思えなかった。

「大ちゃん!待って!!違うの!!」

「美咲は先に俺の車に戻ってろ!
大我、俺は前に言ったはずだぞ!
美咲は駄目だ!!美咲はやらない!!」

一色先生は胸ぐらを掴んでいる大ちゃんの手の上から静かに自らの手を重ね小さく呟いた。

「俺は…何もしてないよ…。」

大ちゃんは覇気の無い一色先生の瞳を暫く睨み、掴んでいた一色先生の胸ぐらから手を離すと無言で私の腕を取りログハウスの外へ向かって引っ張る。

「大ちゃん!!」

私の抵抗などものともせず大ちゃんは私をズルズルと引き摺る。
私が去り際に振り返るとそこには悲痛な表情で俯き立ちすくむ一色先生の姿が小さく見えた。
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