忠犬ハツ恋
「お母さん、
大ちゃんと話す前に私の話を聞いてくれる?」

「いいよ。そこ、座んなさい。」

お母さんは1階の小さな応接セットを指し示した。
 
ここの1階もシャロンみたくガラス張りで私達が
外から丸見えだった。
開放感があって明るくてお洒落だから良いんだけど私はもう少し閉ざされた場所で話がしたかった。

でもそんな事言ってる場合でもない。

私はお母さんと向かい合って座るとほぅと1つ溜息をついた。

「何よ、そんな深刻な話なの?」

お母さんは呆れ顔で私の顔を覗き込む。

「うん……深刻…かな……?」

私は学生鞄から小さな巾着袋を取り出すとお母さんの前に差し出した。
お母さんは静かにそれを受け取り巾着の口を緩めるとその中身を自らの掌に取り出した。

お母さんの掌に出て来たのはシルバーリング。
大ちゃんから貰った婚約指輪だ。

あの日檜山君に外され、翌日何故か大ちゃんの手から私のネックレストップとして舞い戻って来た。
でも檜山君への気持ちを自覚してしまってからもう今までみたく首から下げる事は出来なくなっていた。
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