忠犬ハツ恋
再び2人きりになると私は一色先生に聞いた。

「一色先生は…大ちゃんの何処が好きなんですか?」

一色先生はタバコに火をつけながら少し視線を空に泳がせた。

「それ聞いてどうすんの?」

「いえ、……何と無く………。」

一色先生は細く長くタバコの煙を吐いた。

「一途…なトコかなぁ〜。」

「一途?ですか?」

「大輔はさ、ブレないんだよ。
俺が大輔と知り合ったあの時はもう既に美咲ちゃん一筋だった。
あいつの心に入り込む隙なんて無かったよね…。」

一色先生の主張は不思議だ。
入り込む隙の無い人をわざわざ好きになるものだろうか?

「さらには俺の気持ちを知っても態度を少しも変えなかった。受け入れる事も無かったけど、否定もされなかった。

大輔はペラペラ喋るタイプじゃないが話さなくても俺という人格を認めてくれてはいる、それが伝わって来る。
大輔の隣は安心出来るんだ。」

大ちゃんへの想いを語る一色先生の横顔は凛としていてある種の爽快感を感じさせた。

「……私は…分からなくなりました。

前に私が大ちゃんは空気みたいだって言ったら、一色先生はそれに疑問持ってましたよね?
空気って普段当たり前に身の回りにあるからその存在ってついおろそかにするよね?って。
私はただ大ちゃんとずっと一緒にいるのが当たり前だと思っていただけで好きとかそんなのとは違うんじゃないか?って…。」

一色先生は私の告白を黙って聞いていた。
そして吸い始めたばかりのタバコを灰皿に押し潰すと腕組みをする。
白い煙が部屋に舞ってタバコの香りがツンと鼻をついた。
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