忠犬ハツ恋
最後のお客様を送り出した頃茜ちゃんが寄って来た。

「美咲、体育館行かない?
トモハルが学祭の締めに私達にお疲れライブやるらしいよ。」

トモハルはウチの学校を卒業しストリートミュージシャンを経てメジャーデビューした一躍時の人。
今日の女性陣のお目当ては大半がそのトモハルだった。

「私はいいよ。コーヒーメーカーから離れられない。」

「そう?じゃ、私行ってくるね?」

茜ちゃんは同じクラスの2人を引き連れてメイド姿のまま行ってしまった。

光太郎お兄さんが2つ返事で貸してくれたコーヒーメーカー、勝手に扱われて壊されでもしたら大変だ。

私は始めから一日中このコーヒーメーカーにつきっきりでいる事を覚悟していた。
もうそろそろ光太郎お兄さんがコーヒーメーカーを引き取りに来てくれるはず。
それまでは気が抜けない。



自分から提案したメイドカフェとは言え一日中コーヒーを作るのは思っていたよりもしんどくて体が石みたいに重い。
私は椅子を隙間なく並べるとそこにダラリと横になった。

他のクラスメイト達も皆してトモハルを一目見るんだと体育館へ行ってしまったし、
誰も居なくなった教室で私はぼんやりと天井を見つめた。

思考に隙間が出来ると想うのは檜山君のことばかり。

その時教室の入り口でカタンと物音がした。
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