忠犬ハツ恋
「…コーヒーまだやってますか?」

私は重たい体をしぶしぶ起こし声のする方を見遣る。

「すみません…もう終わっちゃいました。」

入り口に佇んでいたのは白のシャツにジーンズというラフな格好の男性。
目に見える肌という肌が真っ黒に日焼けしているのは分かるが逆光で顔が良く見えない。

もう終わったと言っているのに帰ろうとしないその男性に目を凝らす。

「あの……。」

その男性がゆっくりと私に近づいて来るから私は椅子から飛び起き警戒して後ずさった。
するとその男性は私では無くコーヒーメーカーに真っ直ぐに進んでいくから私は慌ててその男性を止める。

「ちょっと!!勝手な事されると困ります!」

「勝手?
人の商売道具を俺の許可無く持ち出しといてお前はそんな事言うんだ?」

「へ?」

その男性をしげしげと見つめ1つの可能性を口にした。

「…も、もしかして……檜山…君?」

髪は短く刈り上げ、肌は日焼けで真っ黒だ。
何処にも以前の面影が見当たらない。

「座れよ。
約束だろ?俺が育てた新品種のコーヒー淹れてやる。」

その人は自分が檜山圭太であると否定はしないが肯定もしない。

私はあれだけ待ち焦がれた檜山君が目の前にいるかもしれないというのに、あまりの驚きで感動する事すら忘れていた。
< 459 / 466 >

この作品をシェア

pagetop