忠犬ハツ恋
「分かったよ、拓ちゃん。取引しよう。」

「取引?」

2人は私に背を向けて何やらコソコソ話し出した。かと思えば、補導員はニッコリ笑ってアッサリ去って行ってしまった。

………。
一体何を取引したんだろう?

私の方を振り返った檜山君は開口1番怒鳴り散らす。

「お前、何やってんだよ!
こんな時間にこんな所を制服でウロついてたら補導されるに決まってんだろバカ!」

突然のその剣幕に私は一瞬頭の中が真っ白になった。

「ご、……ごめん…なさい。」

檜山君は左手に持っていた傘をさすと右手で私の腕を掴み強引にシャロン方面に引っ張って行く。

映画館で見たとき檜山君は確かに傘を持っていた。
逃げ出した私を…傘をささずに追って来てくれた…?

檜山君は私と変わらないくらいずぶ濡れだった。
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