空色の瞳にキスを。【番外編】
「それならば何故、そこに居る! おかしいと思うのにここに居る!」

 何故だと繰り返すルオーの責め立てに、割って入った四人目の声。

「ここでしか、生きられないからだよ?」

 夜に似合わない、明るく可愛い声だった。声の主の赤髪は素早くルオーの後ろに降り立った。

「──子供?」

振り返ったルオーの視界には、赤い耳の生えた小さな少年がいた。小さな背丈をめいっぱい伸ばして、暗赤色の髪を揺らしながら怒鳴る。

「は?ふざけんなよ!」

「その子、私達の中で一番年上よ。」

「……ふん。」

 スズランの補足に鼻を鳴らして、小さい胸を張ってしたり顔な辺り、まだまだ幼い。

「ではお前が……ナコ、か?」

「そうだよ。子供だからって、舐めるな。」

 獅子と似た危うさを持つ瞳で彼を見上げる。その目の恐ろしさをちらりと確かめルオーは話を戻す。

「ここでしか生きられない、というのは?」

「俺達は軍でしか生きられない。仕事だから、ここに居るんだ。」

 嫌な仕事を押し付けられたものだと、黒猫の少年は溜め息を吐いた。

 自国を思う人間を狩らねばならない自分の立場がルグィンはとても嫌だった。首狩りになっても、殺しを厭う心を捨てきれなかった。けれどだんだんと良心は麻痺してきた。そのうち心は慣れに埋もれてゆくのだろう。

「ここでなくちゃ、闇にしか生きられない私達は、生きていけないもの。」

 どうしようもないわ、と笑う彼女の心は、ルグィンにも通じるものがある。

「貴方だって、私を化物呼ばわりしたじゃない。普通は、もうないもの。」

 ゆら、と危うげな瞳は伏せられた。ひとり、私を普通と言う奴が居るけどねと、化物の掠れ声が聞こえたのは化物のふたりのみ。

「まぁ、そういうこと。」

 ナコは話を打ち切ると、空を見上げた。上弦の月はそろそろ沈むらしく、影は濃くなる。

「話し相手になってくれてありがとう。」

 笑みを貼り付けて近付いてくる獅子に、今度こそルオーは逃げない。この程度でほだされたらしい。

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