空色の瞳にキスを。【番外編】
「どうして、そんな話までしてくれた?」

 ああそれはね、と口を開いたスズランは。

「敵を逃がさない自信があるからよ。」

 そう言って指一本、男に触れて。一瞬で気絶させた体を軽々受け止めた。

「さぁ、帰るぞ。」

 赤狐が今までの雰囲気を壊すように笑った。けれどふわりと彼からも鉄の臭いがして、夢でないことをルグィンに教える。スズランは倒れたルオーを早速回収部隊に引き渡した。

 未だ両手に人を殺した感触の残っているだろうナコは、それを感じさせないほど明るくて、気にすること無く笑っている。スズランはついさっきまで喋っていたルオーを反逆者として拷問にかける為の業務を淡々とこなしている。

 それを見て、ルグィンは辛くなった。自分だって、この前の戦争で殺めたのに。人の弱さを改めて知っただけで、人間に触れるのが怖くなる自分がルグィンは嫌だった。

 二人から視線を外して、闇に溶けてしまった路地を眺めた。彼にとっての視界は夜をものともしなくて、逆に自分自身に己の異質さを再認識させる結果になる。

(慣れてしまうのか)

 通り名も、魔術開発で新しい改造人間の裏に自分達従来型が隠されることも、恐れられることも。

(溺れていくのか)

 造られた途端に用済みで、捨てられるだけの改造人間はなんの為に居るのだろう。
 そんな答えの無い馬鹿な問いに答える人間はいない。

「明日も早いわよ。」

 獅子の少女が帰ろうと催促していた。ルグィンは人工物を蹴り出して、この場を抜けて夜に身を投げた。

   ***

 首狩りへと堕ちた彼を救い出すのは、皮肉にも獲物である賞金首の王女だなんて、まだ知らない。

 王女に恋をするのは、まだまだ先の話である。
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