空色の瞳にキスを。【番外編】
昼下がりは、いつも静かだ。
今日は特に静かだ。
スズランは商談へ、トーヤとアズキは訓練室で自主練に走って行った。
あまり来て欲しくないらしく、ナナセはアズキにここにいるようにと釘を刺されていた。
ナナセは手伝いたいと引き下がったが、二人は頑として首を縦に振らなかった。
取り残された俺とナナセの二人は、暖炉の前に椅子を置き、暖をとる。
暖炉の火は、眩しすぎず柔らかいから嫌いではない。
しばらくしてから、ぽつり、俺は呟いてみる。
「…腹減った。」
落とした言葉に、空色の瞳が丸く見開かれる。
「腹…へ?」
「…腹減った。」
二度言ってみると、小さな肩が強張る。困ったときの癖らしい。
「それは、あたしに何か作れと…?」
おどおどするナナセに、俺はこくり、頷く。
ちょっと待っててね、と呟いて部屋の備え付けのキッチンに向かう。
「(ナナセの料理…。)」
言い出した本人は、抵抗なくキッチンへ向かった彼女に頬を染めていた。
──がしょん。
「きゃ、っ!」
──がん!
「(怪しい…。)」
「ただいまー。」
しばらくしてからにこやかに白い皿を持って近付いてくる銀の少女に、俺は至極当たり前のことを聞く。
「…なんだったんだ?あの音。」
「…あはは、なんでもないよ。」
「(乾いた笑いが、怖ぇー。)」
そんな俺をよそに、ナナセは机に皿を静かに置く。
「どうぞ。」
ことん、と置かれたのは少し甘めのパンケーキ。
見た目もきれいで、軽くついた焼き色が美味しそうだ。
俺は見た目から甘いものが苦手だと思われがちだ。
好みを見透かされたみたいで、少し驚いた顔をしていると、彼女はふわり、笑った。
「ルグィン、甘めのクッキーとか、好きだよ、ね…?」
―何故知っている。そしてお前はなんでそれを恥ずかしそうに言う。
固まっていると、ナナセが困ったように視線を泳がせたから、目の前の菓子に手をつけることにする。
「いただきます。」
不安そうな顔を無視して、大きく一欠片。
「…あ。すげぇ、美味しい。」
素直に口をついて出た感想に、ナナセがさっと赤面するから、俺も反応に困る。
「…また、作って。」
自分が笑うのは下手だとは分かっていたものの、折角だから自然に零れた笑みを彼女へ向ける。
俺の振る舞いに安堵したようにまたナナセが笑顔を見せる。
ふわり、二人で笑い合うのは最近の俺達の言葉なき会話。くすぐったくて、柄にもなく優しい気持ちになる。
──が、こんな時間は続かないらしく、廊下に聞きなれた足音が響く。
「ただいまー!
おわ!すごく良い匂いする!」
―…トーヤ、後でどうしてやろうか。
今日は特に静かだ。
スズランは商談へ、トーヤとアズキは訓練室で自主練に走って行った。
あまり来て欲しくないらしく、ナナセはアズキにここにいるようにと釘を刺されていた。
ナナセは手伝いたいと引き下がったが、二人は頑として首を縦に振らなかった。
取り残された俺とナナセの二人は、暖炉の前に椅子を置き、暖をとる。
暖炉の火は、眩しすぎず柔らかいから嫌いではない。
しばらくしてから、ぽつり、俺は呟いてみる。
「…腹減った。」
落とした言葉に、空色の瞳が丸く見開かれる。
「腹…へ?」
「…腹減った。」
二度言ってみると、小さな肩が強張る。困ったときの癖らしい。
「それは、あたしに何か作れと…?」
おどおどするナナセに、俺はこくり、頷く。
ちょっと待っててね、と呟いて部屋の備え付けのキッチンに向かう。
「(ナナセの料理…。)」
言い出した本人は、抵抗なくキッチンへ向かった彼女に頬を染めていた。
──がしょん。
「きゃ、っ!」
──がん!
「(怪しい…。)」
「ただいまー。」
しばらくしてからにこやかに白い皿を持って近付いてくる銀の少女に、俺は至極当たり前のことを聞く。
「…なんだったんだ?あの音。」
「…あはは、なんでもないよ。」
「(乾いた笑いが、怖ぇー。)」
そんな俺をよそに、ナナセは机に皿を静かに置く。
「どうぞ。」
ことん、と置かれたのは少し甘めのパンケーキ。
見た目もきれいで、軽くついた焼き色が美味しそうだ。
俺は見た目から甘いものが苦手だと思われがちだ。
好みを見透かされたみたいで、少し驚いた顔をしていると、彼女はふわり、笑った。
「ルグィン、甘めのクッキーとか、好きだよ、ね…?」
―何故知っている。そしてお前はなんでそれを恥ずかしそうに言う。
固まっていると、ナナセが困ったように視線を泳がせたから、目の前の菓子に手をつけることにする。
「いただきます。」
不安そうな顔を無視して、大きく一欠片。
「…あ。すげぇ、美味しい。」
素直に口をついて出た感想に、ナナセがさっと赤面するから、俺も反応に困る。
「…また、作って。」
自分が笑うのは下手だとは分かっていたものの、折角だから自然に零れた笑みを彼女へ向ける。
俺の振る舞いに安堵したようにまたナナセが笑顔を見せる。
ふわり、二人で笑い合うのは最近の俺達の言葉なき会話。くすぐったくて、柄にもなく優しい気持ちになる。
──が、こんな時間は続かないらしく、廊下に聞きなれた足音が響く。
「ただいまー!
おわ!すごく良い匂いする!」
―…トーヤ、後でどうしてやろうか。