空色の瞳にキスを。【番外編】
「僕、今いくつだ?成人なんかしていない子供だろう?

 幼い餓鬼でもやはりその仕業は許せなくてな。ルイ王女の妨げになるような芽は摘ませて頂くぞ。」

 その物言いに、少年は内心酷く腹を立てる。平静を装っているつもりだが、少年の薄い唇が曲がった。

 いくらか華奢で小さいが、少年はもうすぐ十四を迎える。怒りのやり場にコートの中の両拳を握り込むことにして、口を開いた。曲がった唇のまま声を落としたから、少し、不機嫌が声に乗る。

「抵抗組織、か。」

 男は頷き肯定の意を返した。真っ直ぐな男の眼に、子供は呆れた。彼もまた国を追われた王女の崇拝者らしい。

(何の為に、狙われるのを承知で、この国に刃向かうのだろう)

 彼はぼんやりとそんなことを思うが、答えを返してくれる人間はいない。

 男が子供へと武器を振りかざし向かってきた。月光に青白く光る金属の塊を表情を動かさずに余裕を持って躱す。振り回される堅い棒切れは、簡単に取り落とされて地面に当たって空しい音を響かせる。

 男が子供と認識する黒猫の冷静さに、大の男は焦り始めたらしい。単純な攻撃がさらに単純なものになる。大人が追いかけてくる子供から逃げてからかい遊ぶように少年は躱す。細い路地を利用して子供が容易く躱すから、男はまた焦って悪循環。終止全く反撃しない少年の方が優勢だった。

 大方、この敵はこの間の戦争で功績をあげた只の一般人だろうと、子供は予想していた。
 生き残ったからといって同等と思うなど馬鹿にも程があると内心鼻で笑うが、表情には欠片も出さない。狙われたのは、自分が化物の中で一番狙いやすかったのだろうと少年は思った。飛び道具は使わない、ただ身体が強いだけで赤狐や獅子みたいな能力がない。そうして狙われたのなら、複雑だったが仕方ない。しかしその力の無い分は補えるくらいは、自分の運動神経は鍛えられていると自負していた。

(凡人が最前線で戦っていた化物に敵う訳がないのに。)

 始末するために最前線に投入されても帰還した子供になんか、勝てる訳がない。ふ、と呆れた子供の溜め息が零れた。

「ふざ、けるなよ!」

 そんな声と共に飛ばされた攻撃を、ひらりと上体だけを傾けてまた避けた。

「もういい!子供相手にこんなことしたくなかったが……。」

 叫んだルオーは骨張った手に、漆黒の金属物をちらつかせた。腰から出てきたのは、なにかと思えば只の銃だった。

「……これを鳴らせば、近くに潜ませておいた仲間が来るぜ?」
「……物騒な。」
 少年はまだ伸び切らない小さな背丈でその男を見上げ、鼻で笑った。煉瓦も髪も、世界が月色に染まった空気に、春がまた渡る。ざざ、とどこかで木々の揺れるさざめきが聞こえた。
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