空色の瞳にキスを。【番外編】
 ポケットに両手を突っ込んだまま眺める少年を、構えたまま引き金を引かずに睨み付けた。 男が見下ろした闇の中で、子供の月色の瞳がゆらり、危ない光を宿して揺れた。

 流石は狩人狩りの名を名乗る人間。武に秀でた自負は全くの伊達では無いようで、子供の攻撃の兆候をさっと察知して構えた銃を発砲する。

 背中にしていた煉瓦の壁を強く蹴れば、小さく見えていたルオーが一瞬にして大きく映る。弾丸のような安い物は勿論避けて、間合いを詰めた。一瞬で詰めた距離と、奥の手が簡単に破れた大男の顔が驚きに飲まれたのがよく見えた。腹に一発拳を埋め込んで、崩れ落ちる男から離れる。

 建物の影が男を黒く染め上げる。傾く男の体にひとまず離れる。ぐ、と唾を飲み込んで、黒髪の小さな少年は息をついた。
 ──生身の人間に触れるのは、まだ怖かった。ぎらりと憎しみの籠った瞳を向ける男を、冷めた目で見下ろしつつ頭に浮かんだ思いに蓋をする。手を汚すことに慣れ、壊すことに慣れても、簡単に壊れる人間に触れるのは苦手だった。どこかで慣れられていないのだろうか酷く怖くて、自分が人外だと知らされる。

「銃はお前に当たらなかったが、確かに鳴ったぜ。もうすぐ俺の仲間が、ここに来るぜ。」

 子供に蹴られた腹を庇って男は体を折りながら、勝ち誇ったようににやりと笑う。子供の一撃でやられるくせにまだ勝算があると踏んでいるらしい。その能天気さは脱帽物だ。相手をする少年の方が疲れてきて、先程からの違和を告げようと口を開いた。

「あら、近くにいたがらの悪い男どもは貴方のお仲間だったかしら?」

 夜の張り詰めた空気にやけに凛と響いたのは、少女の声だった。
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