夢の結婚 ……
……どれだけの間、そうしていただろう
か。
後ろから何やら楽しそうに話す声が聞こ
える。
「……ぅ、…うか。 それは頼もしいな。
よろしく頼むよ、高橋君。」
もはや外見犯罪者とも言えるような部長
はご機嫌の様子だ。
「おはよっ、相良ちゃん! 」
(…相変わらず気持ち悪ぃ…う…ん?!)
「今日から一緒に回ってもらう高橋君だ!
」
「高橋 真人です。 今日からよろしくお
願いします、相良さん…ですよね。」
「あ、は、はいっ。
こちらこそ…よろしく…お願いしま
す…」
由美子はドキドキしながら、その男、高
橋 真人を凝視してしまった。
「彼は、まぁその…上のしょうかいで
ね。 今日からやってもらう事になった。
まぁ、この辺の地域は詳しいようだか
ら、戦力になるだろう。
ま、じゃああとはお若いお二人で…
「じゃぁ、早速行ってきます。」
部長のめんどくさい話を遮るように、由
美子は事務所を出た。
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事務所から外に出ると、緩やかな日射し
が肌をじわりとあたためる。
「今日からよろしくお願いします。」
高橋 真人は再度そう言うと、どこか懐
かしげな笑みを浮かべた。
「あ……う、うん。 ところで私と歳変わ
らないって聞いたんだけど…
なんか若く見えるね。 …高橋君…だっけ?」
「真人…って呼んでください、由美子先
輩…ふ。 ちなみにおれ…いゃ、僕は今
年20です。」
真人は何やら嬉しさを堪えるかのように
微笑んだ。
「なんだー、3個しか変わらないんだっ」
(なんだろう…かっこいいけど…なにか
違うような…)
由美子はそんなことを思いながら、真人
を連れ今日の営業先に向かった。
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「さて、とっ! じゃぁ、次は寿町か…
あそこはあんまり行きたくないなぁ…」
由美子達は横浜中華街などが並ぶ辺り
にいた。
次に向かう寿町はそこから少し離れた場
所にあり、あのあたりは昔から治安があま
りよくない。
「仕事ですからね、由美子先輩。」
「わかってますょー! あ、そだ真人君こ
の辺詳しいんだったよね?
二人で別々に回ってさ… ここ行けるかな?
高橋商事?」
「ぇ、あ、まぁ大丈夫ですけど…
いゃ、でも研修ですよ? それに1人
じゃぁ…」
「大丈夫っ!!
じゃぁ、終わったらあそこ!!
あの喫茶店で待ち合わせね!! よろしく♪」
そう由美子は小綺麗な喫茶店を指差しす
と、あっという間に走り去ってしまった。
「大丈夫かな…由美子…姉ちゃん…… 」
はぁ…とため息をつくと、真人はスーツ
のボタンを外し胸ポケットから携帯を取り
出した。
「…真人です。 えぇ、お久しぶりです…
いゃ、ちょっとこれから、女性の営業が来
ると思いますので……
あ、いやそんなんじゃ… はい、ありが
とうございます。 …はい、では。」
(さて…と、高橋商事だったな… 久しぶりだ。)
真人は携帯についたキーホルダーをひと
しきり眺めた後、自分も目的の場所へと歩
き始めた。