夢の結婚 ……
第二章 高橋 真人
--夕方の公園はどこか寂しげでまるで
この世界に自分だけが取り残されたような感覚に陥る事がある。
「おっ!! すげーっ! それ、ガンバ大阪
じゃんっ!!」
「えーっ!! 見してー! いーなぁー!」
「俺もほしーなぁー… でも、母ちゃん
ぜったい買ってくれねーもん。」
「へへ…落とし玉で買っちゃった♪」
真二はそんな公園の隅っこで少年達のや
り取りを羨ましそうに眺めていた。
当時、小学校ではサッカーが流行ってそ
の選手のステッカーやら、下敷きやら大体
皆何か一つはグッズを持っていた。
真二もまた、そんなサッカーが大好きで
母親が生きているときはよく一緒に練習し
てもらっていた。
--真二には母親がいない。
うっすらと記憶にあるのは、部屋で床から
足を浮かせて俯く母の姿だった。
真二の母は駆け落ちで結婚し、挙げ句に
旦那に借金を背負わされて、借りていたア
パートで、真二を残し自殺した…
あまり、はっきりとは思い出せない、思
い出してはいけないと何かが真二に警告し
ているようだった。
今は神奈川にある母の姉に引き取られて
暮らしている。
他に身寄りのなかった真二はその姉が引
き取るしかなかったのだ。
しかし姉夫婦の家も裕福とは言えず、共
働きでやっとと言う所にそんな妹の子供が
来たのだから当然…
真二は夫婦にとって邪魔な存在だった。
事あるごとに姉は真二の事に辛く当たっ
た。
夫も見ない振りをした。
真二はサッカーをやらなくなった。
当然少年達のような話題など入れる訳も
なく、真二はそんな楽しそうなやりとりを
ただ眺めるだけだった。
その姉と夫の間には娘がいて、年は真二
より3つほど上だ。
そんな辛い日々の中、真二の事を唯一気
にかけてくれる存在だった。
名前は相良 由美子と言った。
--
…お前のとこの子供だろぅ!!
しっかり見とけっ!!
…私だって、仕事があるんだから!!
私は引き取りたくなかったのに、あなた
がっ!!
……お前の為だろぅが!……
-自分の為でしょっ…
--あんたなんかいなければっ!!……
--
真二はいつも一人だった。
そんな時、決まって行くのは家から少し
離れた公園だ。
今日も真二は1人、公園のベンチに座っ
ていた。
そんな真二の姿を偶然にも由美子は見つ
け、声をかけてきた。
「真二っ! こんなとこにいたんだ。」
「……ゆみこ…姉ちゃん…。」
「真二…ごめんね…。 私。」
「姉ちゃんのせいじゃなぃよ、ぼくが1
人で何でもできないから悪いんだ…」
「真二……」
「…………だいじょぶ。私がいるか
ら…っ」
そう言うと、由美子はお小遣いで買った
であろうキャラメルを真二に持たせた。
「甘くておいしんだよ、これっ♪」
「…固くて噛めないよぉ…」
「噛まなくていいのっ、舐めてるうちにやらかくなっておいしんだから!!」
「うんっ… ありがとう、姉ちゃん…」
「…っふふ 真二…サッカー好きなの?」
「ぇっ…ぅん…もぅできないもん」
「そんなこと言わないのっ。
また…出来るから!! 絶対!!」
「…ぅん。」
「よしっ!!」
辛いけど、幸せだった。
あの後、真二は由美子からサッカー
ボールのキーホルダーをもらって…
真二はいつもそれを握りしめていた。
本当に幸せだったのだ。
この時までは…………