ストーリーズ·ポーター
「客に手を出すなと、あれほど言ったのに」
少女の後方から、若い少年の声音が響く。
その声音に少女は、恐る恐る振り返ってみる。
目の前で佇んでいるのは、少女と同年代と思われる緑色の髪の少年。
闇と同じ色の服を纏い、数冊の本を脇に抱えている姿。その表情はどこか呆れ顔で、大げさに肩を竦めて見せた。
「同じことを二回やったらどうなるか、覚えているだろうね? 全く、お前という奴は……」
「ゴ、ゴメンナサイ」
人形は、明らかに動揺していた。流石に少年の一言が効いたのか、先程と違い大人しくしている。
それに今、何とも情けない。少年が投げたのは魔法使いが用いる杖で、それで襟首を固定していたのだ。
「この人形が失礼なことをしました。僕から謝ります。ところで、この店にどのようなご用件で?」
「い、いえ。特には……」
「また、度胸試しか罰ゲームか。そんなところかな?」
「あっ! は、はい……」
「此処は、オバケ屋敷じゃないんだけどね。最近、君のような人物が増えて、迷惑しているんだ」
並べられている品々の奇妙さから、子供の間では色々と噂になっている。
中には度胸試しといって置かれている物を盗む者や、少女のように罰ゲームとして訪れる者が意外に多い。
ハッキリ言って、少年にとっては迷惑だった。この建物は彼の住まいであり、大切な商売品が置かれている場所だからだ。
それを理解していない者達ほど、腹立たしいものはない。
「スリルが味わいたいというのなら、他の場所を探してほしいね。客人以外は、来てほしくはない」
吐き捨てるようにそのように言うと顰め面をしながら少女の横を通り、壁に刺さった杖を抜く。
と同時に、人形が床に落ちた。当たり所が悪かったのか、可愛らしい悲鳴が落下と同時に響いた。
「それとも、本当に恐怖を味わいたいのか?」
「わ、私は……」
無造作に落ちた人形を掴むと、埃を丁寧に叩き椅子に座らせる。先程まで動いていた人形は少年が怖いのか、何も喋ろうとはしない。
寧ろ、動かず喋らないのが人形。
先程のように動いたり喋ったりする姿は恐ろしく、少女は何度も自分に襲い掛かってきた人形を眺める。