ストーリーズ·ポーター
「なら、味わうといい」
すると、脇に抱えていた本を少女目掛けて投げつける。突然のことに、少女は頭を抱えその場に座り込んでしまう。
しかし、いつまでたっても本が落ちてこない。恐る恐る状況を確認すると驚いたことに、投げた本が空中に浮いていたのだ。
信じられない光景に言葉を失う。何回も瞬きし、幻でないことを確かめる。
「えっ! ど、どうして……」
その時、閉じていた本がいきなり動き出した。突然のことに、少女は悲鳴を上げ卒倒しそうになってしまう。
少女が見せる面白い反応に、少年は大笑いしていた。
それも腹を抱え、笑いだす。
少年の失礼な態度に怒りを覚えるも、周囲を漂う本の恐怖によって怒ることもできない。
「こういうのを体験したかったんでしょ?」
「ち、違います!」
「正式な客だったら、このようなことはしないんだけどね。此処は、子供の遊び場じゃない。用がないなら、帰ってもらえるかな。君のような者が来ると、商売の邪魔になるんだよ」
「貴方だって、子供じゃない」
「外見で人を判断しちゃいけないと、親から教わらなかったのかな? 最近の教育はなってないね」
一定の歩調で、少女の方に近付いてくる。一瞬「逃げよう」と思考を働かせるも、動くことができなかった。
少年は少女の間近で歩みを止めると、満面の笑みを見せる。そして耳の近くの髪を掻き揚げると、自分の正体を教えた。
「ハーフエルフ?」
見れば、少年の耳の先端が尖がっていた。しかし一般的なエルフ耳より短く、人間とエルフの血が混ざっているという証拠。
「正解! だから、君に子ども扱いされる権利はないというわけ。寧ろ、お兄さんと呼んでほしい」
「でも、見た目は」
「見た目と言われても、君の何倍も生きているんだけどね。ハーフだからって、人間と同じ年齢とは限らない。そういうことだから、次に来る時は客として来てほしいなお嬢ちゃん」
見た目が同年齢の相手に“お嬢ちゃん”と言われたことが気に入らないのか、口をヘの字に曲げ抗議する。
そんな少女の態度に、少年は不機嫌だった。
人生経験の乏しい人間に、あれこれ言われたくないようだ。
「私は、ステアという名前があります。それに学校だって、通っているのです。ですので、子供扱いしないでください」