ストーリーズ·ポーター
「だから?」
「名前で呼んでください」
「立派な名前があり学校にも通っているというのなら、少しは礼儀を弁えるという気にはならないのかな? ステアちゃん」
見事に痛いところを突かれ、ステアはこの先に続く言葉が出ない。年上から滅多に注意を受けたことのないステアにとってこの言葉は堪えるが、同時に少年に対して反発も生まれる。
「客人として来てくれるというのなら、このような態度は取らないけどね。さて、どうする?」
そのように言われたところで、此処がどのような場所なのか見当がつかない。並べられている品物だけを見ると、倉庫と勘違いしてしまう。
だが“客として”と言っているからには、此処は何かの店だろう。しかしこのような物を買う者がいるのかと、ステアは本気で思ってしまう。
「身の回りで起こる、不可思議な事件。それ体験をしたら、此処に来るといい。大体が、意思を持ったものたちの仕業だから。見た目はなんだけど、結構いい奴等が多いから慣れれば歓迎される」
言葉と同時に、空中に浮いている本を手に取りステアの前で開いて見せる。驚いたことに、開いた頁の上に鋭い歯のようなものが生えていた。それによくよく見れば、これは先程ステアが手に取った本であった。
「な、何で歯が生えているんですか?」
「本に限らず、長い年月が経過した物には意思が宿るんだ。理由はわからない。作り手の意思が具現化したものか、それとも浮遊霊が宿ったのか。あの人形だって、その中のひとつ。此処は、そういうのを集めている場所。そして、その様なものを好む人に売る。そんな商売をしている店かな」
「私は、いりません」
「こんな不可思議な商品を欲しがる人なんて、よっぽどの物好きだよ。そうだ、名前言っていなかったね。僕は、カイル。別に覚えなくとも結構。ただ、自己紹介されたから言っただけだ」
「それ、嫌味ですか?」
「そう受け取りたいなら受け取っても構わない」
ステアの言葉に気を悪くしたのか、音をたて本を閉じる。それを見たステアは「やっぱり怒っている」と、膨れてしまう。
「さて、依頼主の家に行く時間かな」
「依頼主?」
「そう、意思を持った物を受け取りに行くんだ。中には強情な物もあってね、痛い思いをさせ大人しくさせるんだよ」