kiss
僕の前に優実が座り、優実の横に男が座る。
運ばれてきた食事を食べながら、そんな小さなことを僕は気にしていた。
それ以上に気になる物から目を背けて。
優実が食べやすいようにと気づかって、何を食べたいのか聞いてその料理が乗っている皿を差し出す。
それはいつも僕の役目だった。
意識したくなかった距離を今さら感じて、思わず目をそらした。
そのまま席をたってトイレへ駆け込む。
どうしようもなく痛いのだ。
胸が。
耐えられないほど苦しいのだ。
「優実が幸せなら、僕はそれでいいよ」
どこから出たんだ?こんな嘘。
そんなこと思ってないくせに。
僕は優実の隣にいるのが怖かったから、アイツから逃げたんだ。
それでも、友達という言葉で縛りつけている僕はずるい。
右手首に付けている鈴が鳴る。
…こんなの、もう、付けてる意味なんてない。