蝶々、ひらり。
プロローグ
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お久しぶりです。
今度、帰省します。
5月18日午前11時着の電車に乗る予定です。
もし嫌じゃなかったら、会えませんか?
連絡待ってます
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郵便ポストに入っていた葉書の裏面を見て、俺は一瞬息を呑んだ。
今ここには鏡がないが、きっと鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしているのだろう。
この筆跡には見覚えがある。
俺は葉書を裏返して持ち上げて、春らしい澄んだ空に向けて透かして見た。
少し丸みを帯びた癖のある字で差出人のところに書かれた懐かしい名前。
その文字を目で追いながら、口ずさむ。
「……仲山有紀(なかやま ゆうき)」
込み上げてくるのは甘酸っぱい感情だけではなかった。
苦味に似た、後味の悪い感覚が胃のあたりに広がる。
彼女が書いた文字、彼女が触れた葉書。
三年ぶりに触れた彼女の一片。
有紀。
もう一度心のなかで唱えると、何かが体内で弾けたような気がした。
俺は苦笑し、もう一度声に出す。
「有紀」
なんてことだ。
今でもまだ胸が軋むのか。
手紙を一瞬空に投げ、ひらりと落ちるさまを見つめた。
有紀。
俺は、まだ君を忘れてなかったのか。
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