蝶々、ひらり。
薄汚れた俺の部屋は、布団が敷きっぱなしで漫画やCDが散乱している。
俺は床の上の漫画を重ね、有紀の座る場所を作ろうとした。
けれども有紀は立ちつくしたまま、視線を右往左往させている。
「有紀」
もう一度名前を呼ぶと、今度は俺と視線を合わせた。
「……坂上くん、彼女と別れてなかったんだね」
失恋がまだショックなのか、ポツリと彼女が返したのは、俺じゃない男の事で。
それが俺を打ちのめし、例えようのない感情が嵐のように巻き起こった。
俺だって、告白したのに。
ずっと有紀が好きだったのに。
今でも有紀の頭の中を埋めているのは、目の前にいる俺ではなく坂上なのか。
敗北感。
劣等感。
絶望感。
どれをとっても正しかったように思う。
「有紀……有紀、有紀、有紀」
冷静さを欠いて、壊れたスピーカーのように俺は彼女の名前を呼び続けた。
「大輔?」
不安げに呼び返す彼女の声でスイッチでも入ったかのように、俺は勢い良く彼女を抱きしめた。
ぴくりと、彼女が身じろぎをする。