蝶々、ひらり。
*
十八日は土曜日で、俺は部活の指導を他の先生に頼んだ。
少し肌寒いその日、薄い上着を羽織って駅に向かう。
はやる胸を押さえ、心臓が止まりそうなほどの緊張を呑みこんで。
信号待ちの途中で、ポケットに別れ際のハンカチが入っているのを確認する。
有紀に謝まることができるだろうか。
あの日、彼女の気持ちを考えずに自分の気持ちを優先させてしまった事を。
あの時俺がやるべき事は、きっと彼女を抱くことではなかった。
突然に羽をもぎ取られた蝶は、飛ぶこともできずきっと苦しかったろう。
俺という籠の中は、決して快適な空間ではなかったはずだ。
駅に着いたのは、十時四十分。
二十分の時間は、俺を尻込みさせるのに十分な程の時間だった。
何度も立ち去ろうかと足を出口に向け、それでは駄目だとまた戻る。
そんなことを五回ほど繰り返した。
そのうちに駅のアナウンスが流れる。
滑り込んでくる電車。
改札をくぐりぬけてくる親子連れやサラリーマン。
そして最後に有紀が現れた。
一言で言えば垢抜けていた。
長かった髪は肩のあたりまでになっていて、彼女の鎖骨を撫でるように揺れる。
少し染めたのかあの頃と違う薄茶色の髪は、彼女を大人っぽく見せていて。
そこにいたのは、いつまでも野暮ったい俺とは違う都会の洗練された女性だった。
十八日は土曜日で、俺は部活の指導を他の先生に頼んだ。
少し肌寒いその日、薄い上着を羽織って駅に向かう。
はやる胸を押さえ、心臓が止まりそうなほどの緊張を呑みこんで。
信号待ちの途中で、ポケットに別れ際のハンカチが入っているのを確認する。
有紀に謝まることができるだろうか。
あの日、彼女の気持ちを考えずに自分の気持ちを優先させてしまった事を。
あの時俺がやるべき事は、きっと彼女を抱くことではなかった。
突然に羽をもぎ取られた蝶は、飛ぶこともできずきっと苦しかったろう。
俺という籠の中は、決して快適な空間ではなかったはずだ。
駅に着いたのは、十時四十分。
二十分の時間は、俺を尻込みさせるのに十分な程の時間だった。
何度も立ち去ろうかと足を出口に向け、それでは駄目だとまた戻る。
そんなことを五回ほど繰り返した。
そのうちに駅のアナウンスが流れる。
滑り込んでくる電車。
改札をくぐりぬけてくる親子連れやサラリーマン。
そして最後に有紀が現れた。
一言で言えば垢抜けていた。
長かった髪は肩のあたりまでになっていて、彼女の鎖骨を撫でるように揺れる。
少し染めたのかあの頃と違う薄茶色の髪は、彼女を大人っぽく見せていて。
そこにいたのは、いつまでも野暮ったい俺とは違う都会の洗練された女性だった。