蝶々、ひらり。
フェンスから手を離して、俺は力の限りに彼女を抱きしめる。
ちゃんと有紀だ。
幻なんかじゃない。
「俺だってずっと好きだった。忘れようと思って、忘れられなかった」
一気に言い終えると、腕の中の有紀から力が抜ける。
「……会いに来て良かったぁ」
安堵を含んだ彼女の声が胸の奥底までしみ込んで、俺をとろかせる。
「ありがとう、有紀」
俺はそれしか言えなかった。
ずっと臆病で、肝心なことを告げれない俺のもとに、もう一度戻ってきてくれるなんて。
夕暮れの少し冷たい風が俺たちを包む。
抱きしめられたままの有紀のスカートが、ひらひらとはためく。
俺の傍でも、自由に飛んでくれるのか?
そう思ったら、泣けて来て。
泣いてる顔を見られたくはないから、ずっと有紀を腕から離せなかった。