蝶々、ひらり。
そんな彼女が恋をしたのは、高校二年生の時だ。
相手は俺ではない。二年で同じクラスになった坂上聡(さかがみ さとし)だ。
坂上は、いわゆるイケメンというやつだった。
一年の時から首席もしくは悪くてもべスト五には入るような優等生で、なのにガリ勉っぽい感じはなく、いつも飄々としている。背も高く、鼻筋の通った顔は高二というには大人びて見え、その落ち着いた風貌は多くの女子の目をさらっていた。
有紀は坂上に一目ぼれだった。
一学期の最初の席替えの後から、有紀は俺の席に良く来るようになった。
俺と坂上の席の配置が有紀にとって都合よかったからなのだろう。
坂上がドア側の前から三番目で、俺がドア側から二列目の一番前。
俺に話しかけるように席の正面に立つと、坂上のことが自然に覗けるような位置だ。
お陰で、俺は話しながらこっそりとヤツを覗き見る有紀ばかり見なくてはならなくなった。
「有紀、後ろ髪に寝癖ついてる」
「え? やだー! ほんと?」
「ウッソでーす」
苛ついてわざと意地悪なことを言うのも日常茶飯事。
憎まれ口ばかり叩く俺に、彼女は友達としてすっかり心を許した。
いつしか俺に恋の相談まで持ち掛けてくるようになったのだ。