蝶々、ひらり。
「ねぇ、大輔」
いつもの溌溂とした笑顔ではなく、うっすら頬を染めたわずかに憂いを帯びた顔で、有紀は自らを煩わす思いの丈を綴る。
「坂上くんと話すと、どうしてもモゴモゴしちゃう」
坂上の前でだけ、有紀は恥ずかしがり屋に変わる。
「せっかく話かけてくれたのになぁ」
伏せたまつげや少し尖った唇は、彼女の後悔を言葉ではなく俺に伝えてきた。
「なんで……」
俺にそんなこと言うんだよ。
そう言いたかったのに、俺の口は勝手に違う言葉を告げる。
「なんでも聞いてやるから。困ったら俺に話せよ」
「ありがとう、大輔」
いい友達になってどうする。
俺は有紀が好きなのに。
でも、彼女の表情が陰るのを黙ってみてもいられなかった。
名前を呼んだら、振り向いて笑って欲しい。
蝶のようにスカートをなびかせて、いつまでも飛び続けていて。