蝶々、ひらり。
大学を出てあてどもなく歩いていた俺たちは、目的地でもないのに立ち止まった。
通りの真ん中で色んな人が行きかっていて、俺達はきっと邪魔になっていただろう。
なのに、それさえも気にならずに俺は言った。
「俺は有紀の事が好きなんだ」
有紀にこの言葉が届いていたのか分からない。
彼女はぼんやりと俺を見つめて、そしてうつむいた。頬が染まっていたようにも、戸惑っているようにも見えた。
それでもつないだ掌が離されなかったから、俺は勝手に了承の意と受け止めて再び歩きだした。
真夏の炎天下に頭がやられてしまったような気がする。
吹きあがる汗は重力に対してこんなにも従順なのに、頭の中は混乱して考えが四方八方に飛び散ってしまう。
有紀はまだ俯いたままだ。
坂上のキスシーンのショックもあるはずなのに、泣いてもいない。
どうして泣かないのか分からない。
ショックじゃないはずが無いのに。
ただぼんやりと俺に手を引かれて歩く姿はとても頼りなくて、風にたなびくスカートが何故かとても不安をあおった。